第19章
以前ライラから見せてもらったザイオンの地図の記憶を頼りに、リクは改めて紙に書き出してトニーと作戦を練ってみたが、事実を伝えて避難を促す以外に方法はないという結論に達した。ザイオンの島民を全員救出するためには、グース号やザイオンにある船だけでは到底足りないと考え、リクたちはフルーラに救援の船を要請しようと考えた。
極上品のプロペラで燃料を惜しみなく使って航行したため、通常のグース号の約半分ほどの日数で、浮島フルーラまでくることができた。
ひさしぶりにフルーラの港に入港しようとして、トニーはその異変に気がついた。
「なんか、暗くないか」
フルーラは明るくにぎわう交易の豊かな島のはずなのに、今日は停泊している船も少なく、港は以前の華やかさをすっかり失っていた。
「これもザイオンの介入のせいか」
リクから聞いていたトニーは、目を見張って島の様子を見下ろしていた。
船を無事に着陸させ、リクとトニーは知り合いのヤーガを探した。ほどなく見つかったヤーガは少し疲れた顔をしていた。
「ああ、君たちひさしぶりだね」
リクはヤーガの様子に戸惑いつつ、ザイオンの話をし救援船の要請をした。
「時間がないんです。どうか、お願いします」
急な話でヤーガは相当困惑していたが、なんとか市長への面会をとりつけてくれ、一緒についてきてくれた。
「おお、君はかつて飛行大会を沸かしてくれた子だね。覚えているよ。ずいぶん立派になって」
人の良さそうな笑顔で快く市長は迎えてくれたが、リクたちの話を聞くうちに、その表情はどんどん曇っていった。
「島が落ちるだって?そんなことあるわけないじゃないか。何をばかなことをいっているんだ」
市長は少し語調を荒げて言い、そこへヤーガが口をはさんでくれた。
「リク、その話はどこから聞いたんだい?ただの根拠の無い噂話なんじゃないかな?」
やさしく問い正そうとするヤーガに信じてもらいたくて、リクは飛人の話をすることにした。雲の下に下りて、宙を飛ぶ人間に会ったという事実を。
ヤーガと市長は、興味深そうにじっと聞いていたが、話終えると市長が笑って言った。
「おもしろい話を聞かせてくれてありがとう。だが、飛人が本当にいるわけがないだろう。きっと君は夢でも見ていたんじゃないかな」
子供に言い聞かせるようにやさしく言い、そして、表情を厳しくした。
「私は今期で市長を退くことになるだろう。ザイオンの勢力が強くてね。すでにたいした力も持っていない。それに、その話がもし本当だとしても、それならそれで、……別にかまわないんじゃないかな」
そう言って、市長は引きつった笑みを浮かべた。
リクは目を伏せた。もうここでこれ以上時間をとられるわけにはいかない。いつ崩れ落ちるかも知れないザイオンへ一刻も早く向かわなければ。
リクとトニーは目を合わせてから立ち上がり一礼すると、その場を辞した。
「無駄な時間だったな」
港に向かう途中、トニーが悲しげに言った。
二人は急いでグース号に乗り込むと、ザイオンに向けて飛び立った。
市長を責めることはできない。それだけザイオンは、長い年月をかけて、人々の心に深い憎しみを植えつけてしまっているのだ。
それでもその命を救うために、リクたちはザイオンへと向かっていた。