Sky Wish ~ムクの浮島~ 第12章

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第12章

 

出航前に打ち合わせていた通り、新しいスワロー号はフルーラの方角へと向かった。その近辺にライラの考えに賛同した船がいるのだという。

ライラは既にザイオンにあるいくつかの兵器工場の見取り図と、燃料タンクの場所を突き止めていた。最終的には燃料タンクに引火させて、工場をすべて爆発する計画だ。その爆発で浮島自信を破壊しないためには綿密な計画が必要なため、長い時間をかけて何人かの協力者により情報をかき集めていたのだ。その一人がグレッグだった。協力者たちはザイオンに入港するたびに、多くの兵器を詰めた貿易船に遭遇すると、その情報もスワロー号に伝える。それによって、かつての空賊船は外れなしの襲撃をすることができていた。

リクはなるほどと、大いに理解した。

兵器工場内部の情報はもう少しで全てそろう。ザイオン本島に対する襲撃を決行する前に、襲撃の際の防御のためと、兵器工場の燃料タンクを引火させるための爆薬などを、今までどおりザイオンの貿易船の出荷時にいただくこととしていた。これまで奪った兵器類はすぐに溶かして売りさばいていたため、船にはろくな武器がなかった。

フルーラまでしばらく、平和な地域を航行し、グース号のように島々で商取引をすることも無いため、リクは暇をもてあますのではないかと思っていたが、実際スワロー号を操縦してみて、この船の故障箇所があまりにも多いことに気がついた。

「よくこれで航行していたな」

あきれながら、リクは毎日のように船を少しずつ修理していた。

ライラはあっけらかんとして、「飛べばいいのさ」と笑った。そしてグレッグにそっと耳打ちをする。

「あんた、いい船乗りを育てたね」

今日のリクはハッチの開閉の不具合を修理していた。ラーザにいたときはほぼ開けっ放しだったため気がつかなかったが、ムクの運動のために開け閉めする際、そのときどきで、すぐ開いたり、なかなか開かなかったりと、まちまちだったのだ。

「クセがあるって、ただのおんぼろ船ってことじゃないか」

リクは苦笑しながら、新しい我が家である船に愛情を持って、こつこつと作業にあたっていた。命綱をつけて、飛行中の船の外にぶら下がり修理していると、前方から見知らぬ飛行船が近づいてくるのが見えた。

観光船でも、かつての貿易船仲間でもないその新しい船体の影から、ムクが一頭飛びだした。近づくにつれその背に乗せている人の顔にはおおいに見覚えがあることに気がついた。

「レオノールさん!」

リクは叫んで、慌てて船内に戻った。中からハッチを大きく開くと今回は調子よく開いてくれた。少しすると、懐かしい空飛ぶ紳士、レオノールがそのハッチからムクとともに華麗に舞い降りた。

「お久しぶりです!」

リクは駆け寄り、作業で黒くなった手を慌てて服でこすってきれいにしてから、レオノールと握手を交わした。

「ひさしぶりだね。また君に会えてうれしいよ」

レオノールは笑顔をみせてから、顔を少し暗くして続けた。

「ご家族の訃報は聞いているよ。大丈夫かい」

そう言って気遣ってくれる。リクは心配をしてくれるレオノールに感謝の意を込めて笑みを返した。

「もう大丈夫です。この船のおかげで……ライラさんのおかげで前向きになれたから」

「そうか……。それは本当に良かった。ライラは確かにおもしろい人物だからな」

レオノールは心底ほっとしたように言い、天井を見上げて笑った。上には操舵室がある。

「レオノールさんはライラさんを知っているの?」

リクは驚いた。レオノールの代わりに、格納庫の階段上から顔を出したライラが答えた。

「前に言った賛同者だよ。ああ、レオノールだって言ってなかったっけ?」

楽しそうにそう言う。わざとなのか、うっかりなのか、リクはそれでも、懐かしいレオノールに会えて、たくさんの思い出がめぐり、本当にうれしくなった。

 

 

「すっかりきれいな船体になったな。この航路と聞いていたから良かったものの、通常ならわからなかっただろう」

それから、操舵室の中をぐるっと見渡す。

「中身はあまりかわらないようだが」

グレッグとリクは顔を見合わせ笑った。グース号に比べてごちゃごちゃとしている室内はライラの性格を表しているようだ。

「どうしてレオノールさんは、この活動に賛同したの?」

操舵室でリクは聞いた。飛行大会のヒーローにはあまりにも似つかわしくない活動だからだ。

「飛行大会は無期限で中止が決まった。あのザイオンがフルーラに介入し始めたんだ」

操縦席に座るグレッグが「なに?」と顔を向けた。

あの華やかで自然豊かな島が脳裏に浮かぶ。ザイオンが介入したらどうなることか。

レオノールの説明によると、自分たちの島が手狭になったザイオンが、今度はフルーラの広大な地形を生かして兵器工場を広げる計画をしているのだという。表面的にはフルーラへの支援という形で資金を援助し、友好関係を進めるためと言い政治にも人材を投入しようとしている。次回の選挙では、買収された多くの有権者によってフルーラの議員は大半がザイオンの人間になるとレオノールは予測している。その足固めが現在刻一刻と進み、フルーラはどんどん蝕まれているとレオノールは嘆いた。

「以前からザイオンには不信感を抱いていた。このまま見てみぬふりはできぬと仲間と立ち上がり、船をもったところでライラの活動を知って、連絡をとりあうようになったというわけだ」

「それで、何かわかったのかい」

ライラは厳しい目となり言った。

「次の貿易船の出荷予定がわかった」

レオノールはライラに向き直った。

「2日後の午前0時だ。やつら、最近は我々を警戒して夜間に出航するようになった。それに赤ムクを増やして護衛の兵も以前より手強くなっている。用心しろよ」

ライラはニヤリと笑い、「まかせときな」と言って余裕の表情を見せた。

それから、空図を大きなテーブルに広げてみんなで囲み、襲撃場所などの打ち合わせをした。

「そっちは初陣だからな。今回は援護を頼む」

レオノールの言葉に「おう、そうさせてもらうよ」とライラは答えた。

手馴れた様子で打ち合わせが続く。リクは緊張が高まってくるのを感じた。この船での初仕事なのだ。どういう状況となるのかさっぱり予想がつかなかった。

打ち合わせをすべて終え、レオノールが並走している自分の船に戻るというので、リクはハッチまで見送りに行った。

「緊張しているようだが心配するな。私たちもついている」

レオノールはリクのほうを向き、両肩に手を置いた。

「自分も含めて、命だけは大切にするんだぞ。それが私たちの一致している信念だ」

リクはレオノールを真っ直ぐに見て、「はい!」と大きくうなずいた。

リクがハッチを開いている間に、レオノールはムクに乗り込み、ふと考えをめぐらしているようだった。今回もすんなりと開いてくれたハッチにほっとしていると、レオノールが何かを言いかけて、やめた。

リクが不思議そうな顔をすると

「……いや、なんでもないんだ。……じゃあ、あとでな」と手をあげてレオノールは空中へと華麗に飛び立っていった。

「なんだろう……」

つぶやきながらハッチを閉めようとすると、今度は途中でその動きが止まった。

「まったく!」リクはまたハッチの修理へと戻ることとなった。

 

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