水が揺らめく。
わずかな光を受けて、美しい肢体が浮かび上がる。細かな気泡がなめらかな肌を優しく撫でるように滑りあがり、ほのかに暖かい液体が彼女を心地よく包み込む。
シスはそれを見ているのが好きだった。この限られた世界の中で、最も美しいものだと思った。
……アン、大丈夫か?
大きな円柱のガラスケースの中、呼吸用の細い管をくわえ体を丸めているアンが、溶液に浮かんだままゆっくりとまぶたを開いた。
……うん、平気。
そして眠りに入るようにまた瞳を閉じる。重力から解放され、アンの肩までの髪が水中でゆらゆらと揺れていた。
暗い検査室の中、計器類の青い光だけがかすかに、アンの体を美しく照らしている。月に一度、シスたちはこの中に入り、健康状態を総合的に検査されている。
ガラス張りの壁の向こうでは、白衣を着た、博士の助手二人が、下からのモニターの光にその顔を不気味に照らされ、何事か言葉を交わしている。
シスは思う。あの目はなんなのだろう、と。彼らの目は、同じ人間を見るそれとは違う。まるで奇異なものでも見るかのように、その視線はモニターと溶液の中のアン、そして、ときおりシスを行き来する。
唯一の残された子供たち。未来を担う尊い存在。そう博士に言われ続け、ここで育てられた。しかし、博士以外の大人から好意を感じたことはない。その博士も、今では人が変わったように暗い目をしている。
限られた空虚なシスの世界。その中でこの目の前の幻想的な光景だけは、心から美しいと思えた。